【転載】海外ファンドの中国国内不動産投資の税務対策 第三回 中倫律師事務所

【転載】海外ファンドの中国国内不動産投資の税務対策 第三回 中倫律師事務所

海外ファンドの中国国内不動産投資の税務対策(第三回)

中倫律師事務所

2017/9/22 『中倫視界』より転載

 中倫律師事務所は、国際的な不動産ファンドの中国における不動産プロジェクトの買収と売却にかかわる税務問題に対処した実績が多数あり、理論と実践に精通している。

 本レポートは、前回に引き続き中国の現行税制の下で、海外不動産投資ファンドが中国国内不動産投資を行う際にかかわる税務の要点を簡単に紹介し、税務対策の提案を試みることで、当所の見解と経験を提供することを目的とするものである。不動産投資ファンドのご参考になれば幸いである。

 

三.   プロジェクト撤退時の税務対策

プロジェクトからの撤退に際し、海外の不動産投資ファンドは、中国国内プロジェクト会社による対象物件の直接販売、又は中国国内プロジェクト会社の持分もしくは海外持株会社の持分の譲渡によって、かかる不動産プロジェクトからの撤退を実現することができる。

 

1.       中国国内プロジェクト会社による対象物件の直接販売
持分の譲渡に比べ、対象物件の直接売却は税負担が非常に重く、中でも土地増値税と所得税が高いため、実務上、海外ファンドが対象物件の直接売却によりプロジェクトから撤退するケースは少ない。対象物件を直接売却する場合、海外投資者は「営業税の増値税への統合」後の増値税と土地増値税の計算に注意する必要がある。


増値税及び附加税
増値税の申告及び納付で、対象物件の転売であれば、デベロッパー以外の中国国内プロジェクト会社は、2016430日以前に取得した不動産(自社建設の建築物を除く)の売却に際しては、簡易課税方法の適用を選択することができる。この場合、総収入から当該不動産の購入原価又は不動産取得時の評価額を控除後の額の5%が徴収される。一方、中国国内プロジェクト会社が2016430日以降に取得した不動産を売却する場合には、11%の増値税が徴収される。

 

また、中国国内プロジェクト会社は、実際に納付した増値税相当額を課税基準として附加税を納付する必要がある。

 

土地増値税
「営業税の増値税への統合」後、土地増値税の計算時の不動産の譲渡収入には、増値税は含まない。中国の土地増値税の計算は四段階の累進課税(30%~60%)が実施されており、対象物件の付加価値が高いほど適用される税率も高い。

 

企業所得税及び印紙税

中国国内プロジェクト会社には、対象物件の売却益の25%の企業所得税を納付し、不動産売買契約書の記載金額の0.05%の印紙税を納める義務がある。中国国内プロジェクト会社の清算後に分配される利益の本国への送金時には、かかる外国株主は10%の所得税を源泉徴収される(租税条約や手配がある場合はさらに低い税率が適用される可能性はある)。

 

2.       中国国内プロジェクト会社の持分譲渡

中国国内プロジェクト会社の持分譲渡によってプロジェクトから撤退するケースが一般的で、多くの中国国内の人民元ファンドが大挙して商業用不動産への投資に参入している昨今においては、特に多く見られる。しかし、購入側が中国国内の者の場合、次に紹介する税務上の問題の他、譲渡代金の外貨送金制限の問題も存在する。

 

土地増値税

国家税務総局の一部下級機関への返答文書において中国国内会社の持分譲渡についても土地増値税を徴収すべきであるとされているも、持分譲渡の名目での不動産譲渡に対して土地増値税を課すべきと定める、全国を適用範囲とする法令はないため、現行税法上、中国国内プロジェクト会社の持分譲渡に対し土地増値税を徴収されることはないと考える。

当所の実務経験においても、税務当局から土地増値税の納税を要求されたケースはまだない。

 

所得税の源泉徴収及び印紙税

中国国内プロジェクト会社の持分を直接譲渡する場合、海外持株会社は財産譲渡益の10%の所得税を源泉徴収されるとともに、契約書上の譲渡価格の0.05%の印紙税を納税する義務がある。

 

源泉所得税の計算において、中国税務当局は収入とコストの確定について重点的に審査し、譲渡代価とコストの差額を課税対象額とし、10%の税率を適用する。この種の取引において、コストとは、海外持株会社が中国国内プロジェクト会社に払込済の登録資本の額、又は中国国内プロジェクト会社を取得した際に実際に支払った譲渡代価である。これは、プロジェクトの開始時点から、海外持株会社の中国国内プロジェクト会社又は対象物件を買収する際のスキームと密接に関係する。よって、投資のスタート時点から投資スキームと買収価格の支払いを明白にすることで、初めてプロジェクト解散時に控除可能なコストの最大化を図ることが可能となるのである。

 

なお、中国国内プロジェクト会社の持分を直接譲渡するケースにおいて、譲受側が中国の会社である場合は、譲受側が源泉徴収義務者として所得税を源泉徴収し中国の税務機関に納付する。譲受側が海外持株会社である場合、海外持株会社は自ら中国の税務機関にて申告と納税をする必要がある。ただし、後者の場合、実務上、譲受側が源泉徴収し納付することも認められている。

 

3.       海外持株会社の持分譲渡

海外持株会社の持分譲渡によるプロジェクトからの撤退は、実務上で最もよく用いられている方法である。これは税務上の優遇措置がある他、海外持株会社の譲渡にあたっての中国の工商部門における煩雑な変更登記手続を回避することもできるためである。

もっとも、譲受側が中国国内の者である場合には、譲渡代金の海外送金が必要になるため、外貨送金規制の問題はある。

 

土地増値税

海外持株会社の持分譲渡は、中国国内プロジェクト会社の持分の間接譲渡であるため、土地増値税は発生しない。

 

源泉所得税

「国税函[2009]698号文」及び「7号公告」の規定によれば、海外持株会社の持分譲渡に関連し、中国税務当局は取引スキームに合理的な商業目的があるか否かを審査する。合理的な商業目的を有さないと判断される場合、中国税務当局は、当該間接持分譲渡は中国国内プロジェクト会社の持分の直接譲渡にあたるとし、海外の譲渡側に対し持分譲渡益の10%の所得税を徴収する。

 

7号公告」では申告義務を強制していないが、かかる取引につき所得税を納付すべきと最終的に判断された場合、取引の当事者が中国税務当局にて速やかな申告を行い、関連資料を提出していたか否かにより、法律効果はかなり異なる。

実務経験からは、上記規定は、譲受側に対し取引情報の申告を促す効果が非常に大きいと言える。

 

また、中国税務当局は、所得税の計算時に収入及びコストの確定について重点的に審査する。その中でも、持分の間接譲渡における中国国内プロジェクト会社の持分の価値の確定は、従来より税務当局と企業を悩ませる問題でもある。この点、「7号公告」には規定がないため、持分譲渡契約書に定める各代価、費用及び融資の引き受け等につき中国税務当局と十分に意見交換を行う必要がある。

当所の実務経験によれば、多くの税務当局は、中国国内の対象物件の評価額を大前提として、中国国内プロジェクト会社の資産の帳簿価格を参考して調整した価額を、中国国内プロジェクト会社の持分の価値とすることを認めている。

持分譲渡のコストは、一般に、海外持株会社が中国国内プロジェクト会社に払い込んだ登録資本金の額、又は海外の譲渡側が海外持株会社の持分を取得する際に実際に支払った譲渡代金とされている。しかしながら、前の取引において税金の未納があった場合、海外の譲渡側のコストを如何に認定するかが重要なポイントとなる。理論上は、前の取引における納税の有無に関わらず、海外の譲渡側のコストは持分を取得した際に実際に支払った譲渡代価とするべきだが、実務上では不確実性がある。ただ、総じて述べれば、海外持株会社の持分譲渡と中国国内プロジェクト会社の持分譲渡は、所得税の面についてはさほど変わらない。

 

総論として、税務対策の見地からすると、海外持株会社の持分譲渡が税負担も相対的に軽く、また、譲受側にとっても中国工商当局における変更登記手続等を行う必要がない。よって、海外送金にかかる外貨規制の問題をさておき、この方法は依然もっとも広く利用されるプロジェクトからの撤退方法であると言える。

 

まとめ

海外ファンドが中国国内の不動産に投資する過程で、税金コストは重要問題として一貫して存在し、海外ファンドの投資及び撤退形態にかなりの影響を及ぼすものである。よって、買収から撤退までの取引スキーム方案の設計、特に、中国国内の持分又は資産の価値及び取得コストの認定は、全体の税務対策に決定的な影響を与えると考える。

 

重点問題の処理にあたっては、例えば、前の取引の税金が納付されなかった場合、海外の譲渡側の持分取得時に実際に支払った譲渡価格をコストとすることができるか否かといった問題に直面した際には、税務顧問の実務経験が非常に重要である。

当所は過去数年に亘り実務経験を積み重ね、依頼者がプロジェクトから撤退する際にいずれも取得代価をコストとして認められるよう助力した実績がある。

 

※注;

本内容は、作者個人の見解であり、形式の如何を問わず、北京市中倫律師事務所又は同事務所の弁護士による法律オピニオン又はアドバイスではない(本内容につき更に詳細な意見をお求めの方は、中倫律師事務所まで)

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