中国小売業に新たな変化。生き残るのは……?

中国小売業に新たな変化。生き残るのは……?

株式会社ジェイ・シー・アイ

中国ビジネスアドバイザー

森下智史

 

中国のo2o企業「iziRetail」と「零售男人圈」が中国全土170の商業施設の売り上げ状況を調査し、その数値をまとめた。それを受け、商業不動産専門サイト「赢商网」が主要商業施設の売り上げランキングを作成し、公開した。

ただ広東省広州市の大手小売店である「正佳広場」(2014年3位)や「天河城」(2014年6位)、吉林省長春市の「欧亜商都」(2014年9位)などは、「正確な数値が取得できなかったため」として、調査対象から除外されているなど完全とは言えない数値だ。しかしながら、中国における小売業の状況を把握するにはよい素材であると言える。

【表】2015年中国主要小売店売上ランキングスライド2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これを見ると、上位7位までは通年と変わらない顔ぶれになっているが、8位以下が興味を引く。8位、9位、10位とも百貨店でもモールでもなく「アウトレット」という業態。ランクインそのものは昨年トップ10に名を連ねた前述の3つの商業施設が除外されているためもあるだろうが、前年比を見ると10位の「燕莎奥特莱斯」でも8%、上海の「青浦百聯奥特莱斯」においては30%を超える伸びとなっている。さらに36位の「佛羅倫薩小鎮」(天津市・26億元)も前年比19.3%増という高い数値を出しており、この3店舗だけではなく、アウトレットという業態が成長していることが予想できる。

特に上記10店舗以外の残りの店舗を見てみると、半数以上の90店舗が売り上げを落としている(うち80店舗は百貨店)なか、この成長は非常に高い。

「アウトレット」の躍進の理由を考えてみる

このアウトレット市場の拡大、その背景を考えてみると、以下の数点が予想される。

1.観光業の拡大

2.自家用車の増加

3.セール商品購入ニーズ

考えられる3つの背景、それぞれがどういった影響があるのかを簡単に整理してみよう。

 

1.「観光業の拡大」の影響について

中国では家庭の収入増加によってレジャー市場が拡大している。なかでも観光市場は急速に成長しており、毎年春節および国慶節などは数億人単位の消費者が移動する、巨大市場となっている。

下のグラフは観光事業によって見込まれる収入の合計であるが、2015年には4兆元(約66兆円)にまで成長、GDPに占める割合も10%を超えている。

その観光業がなぜアウトレットの売り上げに影響するのか? それはアウトレットが存在している場所が北京、天津、上海、三亜(海南省)と、観光地だからである。

つまり、地方からツアー両行などでこうした都市にやってきた観光客が、「お土産物納入場所」としてアウトレットを訪れ(ツアーに組み込まれているケースが多い)、そこで消費していくのである。

 

【グラフ】中国旅行業総収入の伸び(単位:億元)

スライド1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.「自家用車の拡大」の影響について

中国の自動車販売台数は、2015年で約2500万台に達しており、世界最大の自動車大国となっている。特に自家用車の増加は著しく、大都市ではほぼ毎日のように大渋滞が八世している。

その対策として、大都市の政府では自動車の販売・購入規制はしないものの、「ナンバープレートの購入制度&発行規制」を行い、自家用車による渋滞の緩和を狙っている。つまりナンバーの発行量を減らすことで、自動車は買えるが運転で出かけられないように指標というものである。

この制作によって上海ではナンバープレートの価格が急騰、ナンバーを取得するために7~8万元もかかることがあり、消費者からは「小型車なら買える費用」が苦笑をもって語られている。さらに取得できる確率が低いため、少なからぬ消費者がナンバープレートをつけないまま運転している。

とはいえ、ナンバープレートを付けないで走るのは立派な道路交通法違反。そのため市中心部には走っていけない。もともと大都市の場合は渋滞が激しいため、市内を車で走るメリットもあまりない。自然、消費者の意識は渋滞が少なく、かつナンバープレートが無くても警察につかまりにくい「郊外」へと向く。その先のひとつが、郊外型商業施設であるアウトレットモール。場所も広く、家族で行くには最適な休日レジャー(?)となっているようだ。

 

3.「セール商品購入ニーズ」の影響について

最後のセール商品に関してだが、ここはECとの戦いになるだろう。

価格だけであれば、ECサイトの方に分があると思われるが、アウトレットの場合は「ニセモノ」が無いという点

おそらくは、本物で最新のものや中国国内で売られていない者は海外、もしくは越境ECなどで。普段使いでも比較的ブランド志向を満たすものはアウトレットで購入、といった形に使い分けを行っているようだ。

大手ECサイトの乱立、越境ECの拡大、海外消費の増加など、取り巻く環境が大きく変化している中国小売業界。今後は業態に限らず新たな戦略の構築が求められる。そのなかで、アウトレットモールの拡大がどのような影響をもたらすのか、注目が集まっている。

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